Studies: The Strata of Pre-Creation

刺繍という「遅いメディウム」へ至るための、三つの不可欠な研究。
ここにあるのは完成された作品ではなく、針を持つ前に必要とされる思考の断片です。

自らの美意識の根源の理解に努める「動機」
刺繍では叶わない速度で直感を定着させる
「直観」
そして世界の構造を解読し、点描の単位を定義する
「構成」

これらの思考の堆積が、一つの刺繍作品を成立させるための揺るぎない実験となります。

【Anamnesis】

想起の門

自らの感性の根源を特定するための
記憶の撮影と美意識の考古学。
人間の先天-後天性を探求する。

【Metanoia】

反転実験

「設計図の再現」という刺繍の構造に抵抗する論理的な反転実験としてのドローイング。
あらかじめの正解を排し、因果逆転を意識して描く

【Teleology】

生存の意匠

「生存の必然」が形作る、自然界の論理的な造形美の観測。 多重露光によってイメージを分解・統合し、美を構成する最小単位を解読する。

数千年間、刺繍は常に「何か(支持体としての布、あるいは着用者)」を美しく見せるための「従者」であった。

Anamnesis

The Gates of Memory

【想起の門】

問い:美意識の考古学

私はなぜこれを美しいと感じるのか。自らの感性の根源を特定するための、記憶の想起とフィールドワーク。

Subliminal Impulses

The Genesis of Form

【潜在的衝動:形態の創世】

問い:刺繍における因果の解体と再構築

刺繍の「遅効性」に対する、抵抗。

従来の刺繍は、設計・選定・制作という不可逆な時間軸に縛られてきた。また、装飾としての文脈は、再現性と反復を美徳としてきた。私は、この因果を逆転させたいと考えている。

刺繍は時間を必要とする。
一刺しごとに時間を堆積させるその特性は、いまこの瞬間に溢れ出した感情を、即座に捉えることを拒絶する。

だから私は、パステルを握る。

修正不能な、色彩の爆発

旅の最中、特定の場所、限られた時間。
後戻りできないオイルパステルで、しかし色を滲ませず、緊張感を宿す線で感情を紙に叩きつける。 ここでは、完成予想図は意図的に持たない。

色彩による純粋な暴力。
そして、その無秩序に「美」という秩序を強制する冷徹な視座。

刺繍では叶わない「速度」の中で、自らの本能と美意識を衝突させる。 この不可逆な格闘の記録こそが、後に時間をかけて紡がれる刺繍作品の、揺るぎない核心となる。

Resonance

Observations of Creation

【共鳴:創造の観測】

問い:刺繍における因果の解体と再構築

美の本質への、構造的介入

ここでは、記憶や感情といった主観的なフィルターを排し、自然界が内包する「秩序」そのものを観測する。 花が美しいのは人を喜ばせるためではない。それは生存し、繁栄し、種を繋ぐための残酷なまでの生命戦略の結果である。私はファインダーという小さな窓を通じて、大きな世界の中に潜む「生存の構図」を切り取っていく。

多重露光による本質の抽出

ファインダーという小さな窓を通じ、私は巨大な宇宙の中にある「秩序の断片」を切り取る。 二枚の写真を重ね合わせるという介入は、知識によって「美」を解釈するためではなく、自然界が自律的に生み出した「残酷なまでの機能美」をあぶり出すためのプロセスである。

この「構造的観測」は、ビーズを構造の最小単位として再構築する「Quantum Grains」や、実在を誠実に写し取る「Bona Fide Forms」へと繋がる、視覚的解剖の実験である。